戦争体験談

磐田での面会

磐田でのことである。

 

「海山遠く離れては面会人とて更になく」*3

 

新兵の軍隊生活を風刺した歌のように、ホームシックにかかった頃の六月末に父が面会に来た。
面会所は営門の衛兵所の横にあり、面会者は衛兵司令に挨拶(軍隊では申告という)して、面会所へ入るのであるが、私はその申告を間違えてやり直しをさせられた。

 

この申告の声は面会所の中まで聞こえるのだ。父は当然聞いている。
ちょうど翌日が外出日となっていたので、父はその日磐田駅前通りの旅館に泊まり、外出日の朝営門の前へ迎えにきていた。旅館の二階で父の持ってきた黒豆入りの餅をガツガツと餓鬼がオトキについたように食っている横で、父が昨日の面会の事や自身の軍隊経験者としての注意すべき事など、くどくど言っていた。私は馬の耳に念仏でもないが、まず食うことが先であった。

 

近年、団体旅行で浜松へ行った時、その旅館が懐かしく、団体よりはなれて浜松から普通列車で磐田へ行き、旅館を探したが、町の様子がすっかり変わっていてどこだったか見当もつかなかった。

 

 

*3 可愛いスーチャン

 

 

 

可愛いスーチャン/ 土取利行   Toshi Tsuchitori / Song of Suhchan